東京地方裁判所 昭和45年(ワ)6964号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
ところで、ある土地上に建物が存在し、建物の使用、占有による土地の占有と建物所有による土地の占有とが併存する場合、右土地所有者がその土地につき使用、収益をすることができないのは、特段の事情がない以上、建物所有による土地の占有があるためであつて建物の使用、占有による土地の占有があるためではない。けだし、建物所有による土地の占有がある以上は、建物の使用、占有による土地の占有があるかどうかにかかわりなく、土地所有者はその土地につき使用、収益ができないからである。原告は、被告らが本件建物に居住して本件土地を占有したことと、原告がその所有にかかる本件土地を使用できなかつたこととの間に相当因果関係を認めるべき特段の事情があると主張するところ、<証拠>によれば、以下の事実が認められる。
本件土地・建物の所有権の帰属についてはかねてより原告(又はその前主)、被告ら(又はその先代)及びゲイダとの間に争いがあり、ゲイダは昭和三八年東京地方裁判所に対し被告らの先代亡高太郎を相手取つて本件建物の所有権に基づき右建物からの退去等を求める訴提起をしたところ、亡高太郎は右建物の所有権が同人に有るとしてゲイダの主張を全面的に争つたが、第一審判決(昭和四二年九月二八日云渡)においてゲイダが勝訴した。そこで亡高太郎は、右判決を不服として昭和四二年東京高等裁判所に対し控訴を申立てたが、控訴審係属中の昭和四三年一一月二日に死亡し、被告らが右訴訟を承継した。その後右当事者間において昭和四九年六月三日訴訟上の和解が成立し、被告らはゲイダの本件建物所有権を認め、本件建物から退去した。他方本件土地については、原告が昭和四〇年三月四日所有権取得登記を経由したことなどから、ゲイダの代理人たる弁護士福田彊は昭和四二年三月二二日原告及びその夫である渡辺市衛(以下、「市衛」という。)との間で、(一)ゲイダは本件土地について有する権利を放棄する。(二)ゲイダは本件建物所有権に関するゲイダと亡高太郎間の前記訴訟につきゲイダの勝訴が確定したときには、本件建物を市衛又は原告に譲渡する。(三)以上の対価として市衛はゲイダに対し金五〇〇万円を支払う。原告はゲイダに対し市衛の負担する右債務を連帯保証しかつその担保のため本件土地に抵当権を設定する旨の契約を締結した。<中略>
しかしながら、右認定の事実によれば、被告ら先代及び被告らが本件建物を使用、占有してこれを明渡さなかつたため本件建物の所有者たるゲイダは、本件建物について使用、収益ができず、また本件土地の所有者たる原告もゲイダから本件建物の譲渡明渡を受けてその使用、収益をすることができなかつたといえるけれども、かりに被告ら先代及び被告らがゲイダの要求に応じて本件建物を明渡し、その使用、占有をやめたとしても、本件建物は依然本件土地上に存置せしめられ、ゲイダあるいは原告が本件建物を本件土地上に所有して本件土地の占有を継続することとなることが明らかであつて、被告ら先代及び被告らが本件建物の使用、占有を継続したためにゲイダあるいは原告が本件建物所有による本件土地の占有の継続を余儀なくされ、その結果、原告がその所有にかかる本件土地についてその使用、収益を妨害されたとはいえないから、被告らが本件建物を使用、占有して本件土地を占有したことと原告がその所有にかかる本件土地について使用、収益ができなかつたこととの間には相当因果関係があるとはいえない。
(篠原幾馬 和田日出光 佐藤陽一)